本棚にせっせと本を運んでいた頃、小僧は十代後半から二十歳だった。五十年ほど前の早稲田、渋谷、神保町などの古本屋を巡っては、安い本を数冊買っては、自宅の本棚に並べていた。
前面にレールがついた、可動式の本箱付きの背の高い本箱を三本持っていた。その本棚は隙間なく本で埋まっていたので、数千冊あったと思う。
七十才を迎える少し前にほとんどの本を処分した。本を買い集めていたころには存在しなかった「ブックオフ」にたくさん売った。洋書は神保町の田村書店に売った。どちらも二束三文だったが、おかげで狭い隠居所がすっきりした。
断捨離の後にも、本箱が一本だけ残った。そこにあるのは、「サザエさん」、「ゴルゴ」などの漫画本と永井荷風の「断腸亭日乗」、それから小僧が勤め人だったころの手帳など、雑多な紙の集積である。
インターネットが存在しなかった時代に、小僧はたくさんの紙の本を買っては本箱に収めていた。断捨離も大変だった。ネットで何もかも集められ、読むことが出来るようになると、本箱、本棚の役割も極端に小さくなったのだと思う。
それでも、紙の本がギッシリ詰まった本棚に囲まれた書斎に机を置き、時間を過ごすのは至福の時と感じるのは、小僧のような時代遅れの人間だけだろうか?
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