サンテグジュペリは、「人間の土地」のなかでフランスからアフリカへ飛行したパイロットたちの勇気や責任感について語っている。さらに、人間の愛や友情についても語っている。これは、ある面きわめて哲学的な本である。世の中に広く伝えられた彼のあの有名な言葉も、「人間の土地」の最終章に書かれている。
「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」(新潮文庫 「人間の土地」、216ページ)
恋愛のことだけでなく、友情とか仕事の仲間との関係を含めたとても広い意味で、サンテグジュペリはこの言葉を書いたようだ。というのは、上に引用した有名な言葉の前後には、次のような言葉が書かれている。
「共通のある目的によって、兄弟たちと結ばれるとき、ぼくらははじめて楽に息がつける」
「ひと束ねの薪束(まきたば)の中に、いっしょに結ばれないかぎり、僚友はなく、同じ峰を目ざして到(いた)り着かないかぎり、僚友はないわけだ」
1920年代、フランスから北アフリカ、西アフリカを通過して、大西洋を越え、南米に至る空路を開拓していたサンテグジュペリを含む男たちは、まさに同じ方向を見ながら、命をかけた友情と信頼で結ばれていたのだろう。「愛するとは同じ方向を見ることだ」、というのはサンテグジュペリにおいては、恋愛だけでなく人間関係すべてに適用される考えだったのだと思う。
しかしながら、それほど哲学的に難しく考えなくても、「愛するとは同じ方向を見ることだ」という言葉を具現化している風景がある。それが、パリをはじめとするフランスの至る所にあるカフェテラスの形である。そこでは多くの椅子が、道行く人や車道や街並み全体を眺められるように置いてある。
小僧自身も向き合って座るより、同じ方向を見ながら座るテラス席やカウンター席が好きなので、サンテグジュペリのいうことはよくわかります。
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