星の王子さまとサンテグジュペリは、砂漠で出会う。その時、パイロットであるサンテグジュペリは、サハラ砂漠に不時着していたのだ。物語の最初にこう書かれている。
「6年前にサハラ砂漠で飛行機が故障するまで、本当のことを話せる相手に会わないまま、ぼくはずっとひとりで生きてきた。」(集英社版、池澤夏樹訳「星の王子さま」9ページ)
孤独な人生を送っていたサンテグジュペリは、この時、砂漠という孤独の究極的な場所に追い込まれていた。サハラ砂漠に不時着したパイロットは、彼に言わせれば、「船が難破していかだで漂流している船乗りよりももっと一人ぼっちだった」(同上10ページ)
そんな砂漠に横たわり夜の眠りから覚める明け方、パイロットは王子から声をかけられたのだ。
「お願い、羊の絵を描いてください」
砂漠の孤独と静寂のなかで、さぞびっくりしたことだろう。
小僧もサハラ砂漠の入り口付近まで行ったことがある。サハラ砂漠はアフリカ大陸の西側モーリタニア、モロッコからはじまり、アルジェリア、マリ、ニジェール、チュニジア、リビア、チャド、エジプト、スーダンまで続く広大な地域だ。その広さは、アメリカ合衆国と同じだ。
「星の王子さま」全編を通じ、砂漠の描写は極めて少ない。しかし、パイロットと王子さまの会話が常に砂漠で行われていることを読者は忘れない。砂漠の静けさ、孤独感は、重低音となって物語のなかで効果的に響いている。
サンテグジュペリは、サハラ砂漠を知っていた。モロッコからモーリタニアを経てセネガルに至る空路を飛んでいたし、その路線の飛行場長として地上勤務もしていた。さらに、1935年35才の時には、パリからサイゴンまでの飛行に挑戦し、サハラ砂漠の東部に位置するリビア砂漠に不時着した経験もある。
星の王子さまという、今風に言えば「異次元の存在」をどうやって、人間の物語に導入するのかと考える時、サハラ砂漠は絶好の舞台装置だった。なぜなら、究極的な静謐と孤独に満ちたサハラ砂漠は、異次元の考え方や感じ方を受け入れるのが可能になる場所だから、と小僧は考えます。
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