小さなマイヨット空港の滑走路で、小僧とZさんは途方に暮れていた。さて、ここからコモロの首都モロニにどうやって行くのか?機内のフランス人からは、マイヨット島からモロニへの便は無いと言われていた。
と、その時、小僧は空港のはずれに止まっている小型飛行機に気づいた。そばを歩いていた空港関係者に、「あの飛行機はどこに行くの?」と尋ねてみれば、答えは驚くべきものであった。
「モロニに行くプライベート機だよ」
「乗せてもらえるかな?」
「交渉次第だ」
これも神様のお導きだ。小僧とZさんは小型飛行機に近づき、交渉を始めた。大した額を提示したわけでもないのに、あっさり交渉成立。小僧たちは、モロニ行きの小型飛行機に乗れることになった。
パスポートも見せなかったと記憶している。現金でお金を払って、小僧とZさんは機上の人となった。
搭乗名簿も無いまま、小型飛行機は空に舞い上がった。眼下に海原が広がっていた。墜落したら、小僧とZさんは永久にどこでどう死んだかわからないことになるのだが、当時はそんなことさえ考えなかった。
四十年以上前のアフリカの片隅では、いろんなことが起きていた。名前も知らない人間を飛行機に乗せ、操縦席が丸見えの小型飛行機がコモロ諸島を飛んでいたのだ。今では、考えられないことである。
こうして、小僧とZさんはモロニに着いた。モロニからさらに別の島に行くZさんとモロニの空港で別れて以来、会うことは無かった。夏目漱石の小説、「坊ちゃん」のラストシーンの坊ちゃんと山荒しの別れのようだ。
モーリシャスからレユニオン島、マイヨット島を経てモロニに至る道中が、海外旅行のトラブルの思い出として真っ先に思い出したことである。
Zさんはお元気であろうか? (この項、了)
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