秋が深まっていくにつれて、甘い洋菓子が食べたくなる。猛暑の夏には、洋菓子が食べたいという気持ちにならなかったのに、不思議だ。
洋菓子に使われる栗、リンゴ、イチジク、ブドウなど、秋の恵みが増えてゆくからかもしれない。
地元、新百合ヶ丘には、リリエンベルグという名の洋菓子店がある。小僧がこの町に引っ越してきた三十年前からあった。当時から美味しいケーキや焼き菓子を提供してくれる貴重なお店だ。
今や知る人ぞ知る有名店で、平日でも長い行列ができる。昨日、リリエンベルグのタルトタタンをゲットした。
バターと砂糖で炒めたリンゴを型に入れ、その上にタルト生地を被せ焼き上げ、ひっくり返してお出しするお菓子のようだ。
初めてこのお菓子の名前を聞いたのは、四十年ほど前のことだった。小僧は、スイスで学生をしていて、友人たちとカフェでランチをした。デザートに、フランス人の留学生が「タルタタン」(と、小僧には聴こえた)を注文した。
その友人は、タルタタンを一口食べると、こう言った。
「なんだこれは?これはタルタタンじゃない。ただの腐ったリンゴだ。小僧、ホントのタルタタンが食べたかったら、フランスに来い」
その場には、スイス人の学生もいたので、失礼に当たるのでは?と、小僧は心配になったが、フランスの学生にとっては、ホンマモンのタルタタンはもっと美味しいものだという自負があったのだろう。
と、いうのも、タルトタタンは、フランスの「タタン」と言う名のホテルで生まれた、フランス菓子だからだ。フランス人の学友の反応は、日本人が外国で「これはホントの寿司じゃない」としばしば断言するのに似ている。
そんな、四十年も前の会話を思い出しながら、食べたタルトタタンは絶品でした。リリエンベルグのお菓子にはずれはありません。あの、フランス人の友人に食べさせたいと思う小僧でありました。