「星の王子さま」は、大人が読む本である。とりわけ、王子さまの星に種(たね)の形でやってきて、花開いたバラと王子さまの関係は、子供にはわからない。
王子さまはバラの美しさに感動し懸命に面倒を見たが、水をくれ、風よけを立ててくれ、夜はガラスの鉢をかぶせてくれとバラは王子さまに注文を付け、王子さまは次第に疲れバラを星に残し旅に出てしまう。
「ぼくも若かったし、彼女の愛しかたがわからなかったんだ」(集英社版、池澤夏樹訳「星の王子さま」40ページ)
地球にやってきた王子さまは、同じように綺麗なバラが5千本も咲く庭を見つけてびっくりする。
「ぼくの星のあのバラは、特別に綺麗な薔薇ではなかったのか?世の中にはこんなにもたくさん綺麗なバラが咲いているんだ」と。
そこで、人生の知恵を授けるキツネが、こう教える。
「きみがバラのために費やした時間の分だけ、バラはきみにとって大事なんだ」
「飼い慣らしたものには、いつだって、きみは責任がある。きみはきみのバラに責任がある・・・」 (集英社版、池澤夏樹訳「星の王子さま」89ページ)
王子さま自身も五千本のバラにこう言う。
「通りすがりの人はぼくのあのバラを見て、きみたちと同じだと考えるだろう。でも、あれはきみたちをぜんぶ合わせたよりもっと大事だ。なぜって、ぼくが水をやったのは他ならぬあの花だから」(同、88ページ)
こうして星に残してきたバラは「世界にただ一つのバラ」となる。ともに時間を過ごし、語り合ったキツネは、「世界でただ一つのキツネ」になるのだ。
ここんところが、「星の王子さま」で最も感動的な場面だと、小僧は思います。人を愛したり、失ったりしたことのある人でないとわからない、言い換えれば、それなりの人生経験がないと、「星の王子さま」は読みこなせない本だと考える所以(ゆえん)です。
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