どんな名著も国境を越えてベストセラーになるためには、優秀な翻訳家と出会う必要がある。「星の王子さま」が日本でこれほどポピュラーな書籍になったのは、もちろん原作のおかげだが、翻訳家の力も大きく貢献していると思う。
この本は、長い間、内藤濯(ないとう あろう)氏の翻訳で岩波書店から出版されてきた。ところが、2004年末に著作権と岩波書店の出版権が消滅すると、複数の翻訳で複数の出版社から「星の王子さま」が出されることとなった。
内藤氏の翻訳がすぐれたものであったという評価は世に定着していたが、時の流れのなかでその言葉遣いが読みづらくなっていたという事情もあったようだ。このブログでの引用も、そうした2005年以降出版された新たな翻訳による書籍から行った。作家で小僧が今の日本で最良の読書家と考える池澤夏樹氏の翻訳で、集英社から出版された本を使った。
しかし、もう一冊お気に入りの新たに翻訳され、出版された本を挙げよといわれれば、河野万里子氏訳の新潮文庫となる。「訳者あとがき」には、サンテグジュペリの生涯も要領よく紹介され、コンパクトで便利な美しい本に仕上がっている。
翻訳もよく工夫されている。(偉そうに、ス、スマンです)たとえば、アプリヴォワゼというフランス語を「飼い慣らす」と訳すかわりに、「なつく」としていることに小僧は共感した。
この単語は「星の王子さま」でキーワードの一つだ。王子がキツネに「一緒に遊ぼう」と言うと、キツネはこう答える。「遊べないよ、なぜなら君は僕をアプリヴォワゼしてないから」
「飼い慣らす」と「なつく」「なつかせる」どちらがいいか、好みの問題だと思いますが、小僧は河野氏の翻訳に繊細さを感じました。
サンテグジュペリの「星の王子さま」は幸せな書籍だ。遠い日本で、これほど優秀な作家や翻訳家が熟読し、素晴らしい日本語に訳しているのだから。もちろん、一番恩恵を受けているのは、私たち、日本の読者である。
「星の王子さま」は、翻訳の力を感じさせる一冊である。
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